子どもが歯をぶつけたときの応急処置と歯科受診の判断
お子さんが転んだり、どこかに顔をぶつけたりした際、口元から血が出ていたり、歯がいつもと違う状態になっていたりすると、保護者の方は冷静ではいられないかもしれません。子どもの外傷の中でも、歯や口の怪我は非常に多く、いざという時にどう対応すれば良いか知っておくことは、お子さんの歯の未来を守るために非常に重要です。
この記事では、お子さんが歯をぶつけてしまった時に、保護者の方が家庭でできる正しい応急処置、絶対にやってはいけないこと、そして歯科を受診すべき判断基準について、網羅的に解説します。
家庭でできる応急処置
出血がある場合:清潔なガーゼで圧迫止血
お口の中が切れて出血している場合、まずは止血が最優先です。清潔なガーゼやティッシュなどを小さく丸め、出血している部分にしっかりと当て、5分〜15分ほど指で圧迫し続けてください。唾液で濡れていても、焦らずにじっと押し続けることがポイントです。ほとんどの場合、圧迫することで血は止まりますが、それでも出血が止まらない場合は、傷が深い可能性があるため速やかに歯科を受診してください。
痛みや腫れがある場合:タオルで包んだ氷で冷やす
ぶつけた唇や頬が腫れている、またはお子さんが痛みを訴える場合は、患部を冷やすことで痛みと腫れを和らげることができます。氷や保冷剤を直接肌に当てるのではなく、必ず清潔なタオルや布で包んでから、優しく当ててください。
歯の状態別!正しい対処法と絶対にやってはいけないNG行動
歯の状態によって、適切な対処法は大きく異なります。特に、自己判断での誤った対応は、歯の寿命を縮める原因になりかねません。
【最重要】歯が完全に抜けてしまった場合
歯が完全に抜けてしまった場合、受傷後30分以内の処置が、歯を元に戻せる(再植)かどうかの分かれ目になります。以下の手順で、一刻も早く歯科クリニックへ向かってください。
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やるべきこと
- 歯を探す: 抜けた歯を見つけ、歯の頭の部分(歯冠)を持ちます。根っこ(歯根)の部分には、歯を元に戻すための重要な細胞(歯根膜)が付着しているため、絶対に触らないでください。
- 歯を保存する: 歯が汚れていても、水道水でゴシゴシ洗うのは厳禁です。歯根膜細胞が剥がれ落ちてしまいます。汚れが気になる場合は、牛乳か生理食塩水でサッと洗い流す程度にします。
- 乾燥させない: 歯を以下のいずれかの液体に浸して、歯科クリニックへ持参します。乾燥は歯根膜細胞にとって致命的です。
- 最適な保存液: 牛乳 > 生理食塩水 > (最終手段)本人が嫌がらなければ口の中(頬と歯ぐきの間)
- すぐに受診する: 可能な限り早く、30分以内を目安に歯科を受診してください。
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やってはいけないNG行動
- 抜けた歯をティッシュや布で包んで乾燥させる
- 歯の根っこを触ったり、ブラシでこすったりする
- 熱湯や消毒液で消毒する
歯がグラグラする、または位置がズレている場合
歯が抜けそうにグラグラしていたり、内側や外側に曲がって位置がズレたりしている場合、歯を支える骨や組織が損傷しているサインです。
- やるべきこと
- 患部を安静に保ち、すぐに歯科を受診してください。早期に専用の器具で固定することで、歯が助かる可能性が高まります。
- やってはいけないNG行動
- グラグラする歯を指で触る、動かす
- ズレた歯を自分で元の位置に戻そうとする
歯が欠けた・折れた場合
歯の一部が欠けたり、折れたりした場合は、歯科を受診してください。折れた部位によって、歯を残せるか、抜歯かの判断が必要になります。
歯科受診の判断基準:「痛くないから大丈夫」は間違い
お子さんが痛みを訴えていなくても、見た目に少しでも変化があれば、歯科の受診は必須です。内部で起こっている問題は、専門家でなければ判断できません。
こんな症状はすぐに歯科クリニックへ
以下のいずれかに当てはまる場合は、自己判断で様子を見ずに、必ず歯科医師の診察を受けてください。
- 歯がグラグラと動揺している
- 歯の位置がズレている、いつもと違う場所にある
- 歯が欠けたり、折れたりしている
- 歯の色が少し変わってきた(ピンク色、灰色、黒っぽいなど)
- 歯ぐきが腫れている、出血が続く
- 噛むと痛がる、食事を嫌がる
いつまでに受診すべき?タイムリミットは?
歯の状態によって理想的な受診タイミングは異なります。
- 歯が完全に抜けた場合: 可能な限り早く(目標30分以内)
- その他の場合: 当日中、もしくは翌日。遅くとも48時間以内には受診することが強く推奨されます。
時間が経つほど、治療の選択肢が狭まり、歯を残せる確率が低くなってしまいます。夜間や休日でかかりつけ医に連絡がつかない場合は、地域の休日夜間急患センターや救急相談窓口に連絡し、指示を仰ぎましょう。
放置は危険!歯をぶつけた後に起こりうる後遺症
「痛がっていないから」と放置すると、数週間から数年後に深刻な問題が起こることがあります。
- 歯の神経が死んでしまう(歯髄壊死): ぶつけた衝撃で歯の神経が死んでしまうと、歯の色がだんだんと灰色や黒っぽく変色してきます。放置すると、歯の根の先に膿が溜まり、将来的に大きな痛みや腫れの原因となります。
- 永久歯への影響: これが乳歯の外傷で最も懸念されることです。乳歯の根のすぐ下には、後から生える永久歯が育っています。乳歯への衝撃が永久歯に伝わると、永久歯が茶色っぽく変色・変形して生えてきたり(ターナー歯)、正しい位置から生えてこなくなったりすることがあります。
- 歯の根が溶けてしまう(歯根吸収): レントゲンを撮らないと分かりませんが、歯の根が徐々に溶けて短くなり、最終的に歯が抜けてしまうことがあります。
ぶつけた直後は何ともなくても、これらの変化が起きていないか、定期的に歯科で経過を観察していくことが非常に重要です。
まとめ:お子さんの大切な歯の未来を守るために
お子さんが歯をぶつけてしまった際、最も大切なのは「自己判断で放置せず、必ず歯科医師に相談する」ことです。家庭での応急処置はあくまで一時的なもの。歯やその周囲の組織がどうなっているかを正確に診断し、適切な治療を行うことは歯科医師にしかできません。
今回の怪我の治療だけでなく、将来的な永久歯への影響まで見据えた長的なフォローアップのためにも、信頼できる「小児歯科」を見つけておくことをお勧めします。